カルシウム感知受容体(Calcium-sensing receptor : CaSR)は、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone : PTH)分泌調節に必須の分子としてクローニングされたG蛋白共役受容体である。細胞外Caは、CaSRを介してPTHを抑制することにより、血中CaとPTH濃度との間には、厳密なネガティブフィードバック機構が存在する。既にCaSRの不活性型変異のヘテロ接合体は、比較的低Ca尿症と軽度の高Ca血症を特徴とする家族性低Ca尿性高Ca血症(familial hypocalciuric hypercalcemia : FHH)の、逆にCaSRの活性型変異のヘテロ接合体は、相対的高Ca尿症とPTH分泌不全による低Ca血症を示す常染色体優性低Ca血症(autosomal dominant hypocalcemia : ADH)の病態を呈することが明らかにされていた。一方FHH患者の病態は、高Ca血症の代表的原因疾患である原発性副甲状腺機能亢進症と類似しているものの、FHH患者の副甲状腺組織所見は明らかではなかった。またADH患者の低Ca血症以外の病態についても、詳細な報告は存在しなかった。我々は、CaSR遺伝子変異の検索と変異CaSRのin vitroでの機能解析から、FHH患者の副甲状腺組織は、原発性副甲状腺機能亢進症惹起副甲状腺腺腫とは異なり、lipohhyperplasiaと呼ばれる特殊な組織像を示すこと、さらにCaSR活性型変異のうち変異CaSRの活性化の程度の著しいものは、腎尿細管ヘンレ上行脚のrenal outer medullary potassium channelの抑制からBartter症候群様病態を合併することを明らかにした。これらの成果は、CaSR遺伝子変異による病態の多様性を示すと共に、病因に基づいた新たなCa代謝異常症の分類の確立に有用であったものと考えられる。
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