研究概要 |
我々は、従来よりブドウ糖がKATPチャネルの閉鎖とは別のメカニズムでインスリン分泌を刺激しうることを見い出し、その特性やメカニズムについて研究を継続してきた。本研究期間にその分子基盤につながる成績を発表できた(Endocrinology 144:5232-5241,2003)。この論文において膵ランゲルハンス島を、^3H-パルミチン酸を用いてラット膵β細胞の代謝ラベルをおこなうと数種類の蛋白がラベルされ、それらが生化学的にpalmitoylationであることを証明した。そのうち24KDの蛋白はブドウ糖などの栄養素で特異的にラベル量が制御されることがわかった。その後これらのpalmitoylationをうける一群の蛋白の同定やその特性について検討している。現在、膵ランゲルハンス島の蛋白を、SDS2次元電気泳動を基盤としたプロテオーム解析をおこなう準備段階である。Preliminaryではあるが、acylationのターゲットと考えられる蛋白を2つ同定し、アミノ配列を明らかにした。一方、今後糖尿病治療の治療で用いられるGLP-1アナログや類似の薬物治療の作用は膵β細胞内のcAMPがそのメディエーターであるので、cAMPのインスリン分泌に対する作用基盤の確立も重要な課題である。この観点からは、cAMPがブドウ糖と同様にインスリン分泌のreleasable poolを増加させることを報告した(Endocrinology 143;4203-4209,2002)。さらに従来はインスリン分泌を惹起するためには細胞内Ca2+濃度の上昇が一義的に重要と考えられていたが、cAMP刺激が十分存在すれば、ブドウ糖などの栄養素は細胞内Ca2+濃度の上昇がなくてもインスリン分泌を惹起する事実を見いだした。この成果の一部は論文として公表した(Diabetes 51:S29-S32,2002)。早期2型糖尿病患者にみられるインスリン分泌不全の原因を考える上でもきわめて興味深い現象である。このコンセプトを発展させた実験結果については現在、論文投稿準備中である。
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