ナトリウム利尿ペプチドの特に腎における臓器保護作用の解明を目的として検討し、以下の成果を得た。 1.腎炎モデルにおける検討 我々は既に、肝臓より血中にBNPを過剰分泌するBNP過剰発現マウス(BNP-Tg)を用いて腎亜全摘腎不全モデルを作製し、BNPが腎保護的に働く成績を得た。今回、抗糸球体基底膜抗体腎炎をマウスに発症させたところ、野生型では高度の蛋白尿と著しい糸球体・間質の傷害を呈したが、BNP-Tgではほとんど無処置群と同程度であり、Na利尿ペプチドが免疫学的機序による腎障害の進行に対して保護的に働くことを証明した(J Am Soc Nephrol)。このモデルにおいて腎でのTGF-β、MCP-1およびERK/MAPキナーゼの亢進が明らかに抑制されており、これらの機序がBNP-Tgでの腎保護作用に関与すると考えられた。 2.腎間質線維化モデルにおける検討 一側尿管結紮による腎間質線維化モデルを用いてBNP-Tgでの変化を検討したところ、過剰のBNPが腎間質線維化に対し抑制的に働く成績を得た。この機序を解明するため、FITC-dextran及びlaser Doppler imagingを用いた腎髄質の尿細管周囲毛細血管(PTC)血流の検討、PECAM-1染色による血管内皮細胞の解析を行い、BNP-Tgにおいて線維化進行の際にPTC血流が有意に改善・保持されることが腎保護作用に関与することを見出し、Na利尿ペプチドによる内皮保護・再生作用が腎保護的に働く可能性を示唆した。 3.糖尿病モデルにおける検討 1型糖尿病モデルとしてBNP-Tgを用いてSTZ糖尿病モデルを作製し、腎機能および組織学的検討を行った。対照にて糖尿病発症4週後より顕著となった蛋白尿はBNP-Tgで16週の経過を通じ有意に(〜50%)抑制され、また16週後の腎組織像では糸球体腫大、メサンギウム基質増加の明らかな改善、糸球体内TGF-β、collagen IV発現の正常化を認めた。この機序として、培養メサンギウム細胞を用いて高糖下およびPKC刺激時のMAPキナーゼ活性化を検討し、BNP添加が完全にそれらを抑制することを見出した。現在2型糖尿病モデルにおける作用の有無とともに、臨床応用の可能性について予備的検討を行っている。
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