血管内皮細胞の接着分子VCAM-1発現に対するプロゲスチンの作用について検討した。プロゲステロン(Prog)やR5020は、TNF-αにより誘導される細胞表面VCAM-1蛋白とVCAM-1 mRNAの発現を抑制した。一方、MPAはVCAM-1の発現を抑制しなかった。TNF-αにより誘導されるVCAM-1遺伝子プロモーターへのNF-κBの結合をProgは抑制したが、MPAはこれを抑制しなかった。Progは、TNF-αによるNF-κB p65の核内移行を抑制しなかった。すなわち、ProgはTNF-α刺激によるp65の核内移行後のステップでNF-κB活性を阻害しVCAM-1遺伝子の転写を抑制することが判明した。血管内皮細胞におけるProgとMPAの異なる作用は、selective progesterone receptor modulator (SPRM)の可能性を示すものである。 ついで、グルココルチコイド受容体(GR)リガンドは血管内皮細胞におけるTNF-α誘導性のIL-6発現を抑制するがVCAM-1発現を抑制しないこと、一方PPARαはIL-6とVCAM-1のいずれの発現をも抑制することを明らかにした。このようなGRとPPARαの作用の特異性は、IL-6およびVCAM-1プロモーター活性および各々のプロモーター領域に対するNF-κB結合についても同様に認められた。すなわち、NF-κB依存性の遺伝子発現に対する抑制作用には、核受容体-標的遺伝子間で特異性が存在することを証明した。 さらに、抗グルココルチコイド作用と抗アンドロゲン作用を示すことが明らかにされているRU486が、TNFα誘導性IL-6発現に対するPPARαの抑制作用を、蛋白レベルおよび遺伝子の転写レベルで阻害することを証明した。培養血管内皮細胞の免疫染色解析の結果から、PPARαのリガンド依存性核移行をRU486が阻害することが明らかとなった。核受容体の核移行を拮抗することにより核受容体のアンタゴニスト作用を示すとの報告はこれまでになく、受容体のアゴニスト・アンタゴニスト作用の機構を考える上で興味深いと思われた。
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