甲状腺癌では、Ret遺伝子の再配列異常の他に、組織特異的な癌遺伝子は、未だに発見されていない。そこで、甲状腺癌における新たな変異遺伝子の発見を目的として本研究を行なっている。まず、悪性度の高い甲状腺癌手術摘出組織を患者からインフォームドコンセントを得て提供を受け、RNAの抽出を行なった。次に、少量(1μg)のRNAよりSMART法(クローンテック社)を改良した方法で、完全長のcDNAライブラリーを作成した。両端にPCRで増幅可能なプライマーサイトを作成してある。このcDNAライブラリーをレトロウイルス・ベクターに組みこんだ後、NIH3T3細胞に導入し、フォーカス形成能を調べた。この結果、4個のフォーカス形成が見られた。それぞれのフォーカスから細胞を単離してヌードマウスに移植し、腫瘍形成能を確かめた。得られた4クローンともに、2-3週間で腫瘍形成を確認することができた。次いで、マウスに形成した腫瘍からDNAを抽出して、特異的なプライマーを用いることにより、NIH3T3細胞内の染色体に組み込まれたヒト遺伝子の確認作業を行なった。増幅したDNAをシークエンス解析し、Genbankに照合することにより遺伝子の同定を行なった。その結果、1クローンからは、Raf-1遺伝子の5'側の欠損したものであり、他の3クローンからはBRAF遺伝子の5'側欠損タイプであることがわかった。Raf遺伝子に関しては、変異により活性型になり、MAPKシグナルを活性化させ細胞増殖を促進する。BRAFの変異を甲状腺癌細胞株および甲状腺癌組織から抽出したDNAを用い調べたところ、6細胞株のうち4株で変異を認めた。また、186症例の甲状腺腫瘍の解析で48例(25.8%)にBRAF変異認めた。変異は乳頭癌に多く、臨床ステージの悪性度に相関していることが明かになった。
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