研究概要 |
基盤研究(C)補助金により、バソプレッシン(AVP)依存性低ナトリム血症における水チャネルアクアポリン-2(AQP-2)の動態に関する基礎的研究を行った。計画書に従って雄性SDラットにAVP V_2アゴニストdDAVP(5ng/h)を浸透圧ミニポンプで投与、食餌を液体食として実験的にSIADHモデルラットを作製した。対照群(dDAVP-excessラット)はdDAVPと固形食投与、自由飲水として作った。SIADHラットでは、2日目以降120mmol/l以下の低ナトリウム血症を認め、尿浸透圧は800-900mmol/kg(対照群、3,000-3,200mmol/kg)に低下し、尿濃縮力の減弱を認めた。このように実験的にSIADHラットでAVP escape現象を見い出した。腎集合尿細管細胞でのAVP受容体結合能は、両群のラットともdDAVP非使用時の60%程度に、またAVP V_2受容体mRNA発現も25-40%まで著しく低下したが、両群間に差違を認めなかった。AQP-2 mRNA発現は、dDAVP-excessラットに比べてSIADHラットで有意に減弱した(2日目:183% vs. 298%;7日目:154% vs. 324%, P<0.05)。腎内AQP-2蛋白発現および尿中AQP-2排泄も同様にSIADHラットで減少していた。細胞内情報伝達物質のcAMPの組織内濃度はSIADHラット、dDAVP-excessラットいずれも増加しておらず、またAVP反応性も著しく低下していた。これら2群のラットでは、AQP-2蛋白の管腔側細胞膜への細胞内traffickingを認めるが、両群間の有意差はみられず、AVPによるAQP-2のshort-term調節系は影響されない所見と考えられた。SIADHラットでは、体液量増大に伴う細胞容量変化あるいは血漿浸透圧の低下自身が、腎の受容体以降のAVPシグナル伝達系を直接修飾して、AVP escapeにつながる尿濃縮力の低下を惹起することが示唆される。とくに、AVPによるAQP-2のlong-term調節系が抑制されることがAVP escapeに重妻なことが明確になった。
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