G1期からS期への進行にはG1サイクリン・CDK複合体が中心的な役割を果たし、RB癌抑制遺伝子産物がその重要な標的の一つであること、更にその活性を制御するCDK阻害因子が癌の発症や細胞の分化に関与することなどが明らかになっている.これまでに、p27CDK阻害因子とその類似蛋白であるp57等のCDK阻害因子による細胞の分化過程の制御機構の解析を行なっており、骨芽細胞ではp57の発現量が増加することによって細胞周期が停止し分化が進行することを明らかにし、またその発現がTGFβの下流でのシグナル伝達を行うSmadによる転写制御を介してユビキチンプロテアソームによる蛋白分解によって制御されることを示してきた。本年度はさらに、骨芽細胞内でp57の制御に関わるタンパクをyeast two-hybrid法で検索した結果、LIM kinase-1が結合することが明らかになった。LIM kinase-1はGタンパク質によるシグナル伝達の下流でアクチンファイバーの形成を制御し、細胞骨格をコントロールする事が知られている。細胞内でLIM kinase-1を発現させると、アクチンストレスファイバーが形成されるが、同時にp57を強制発現させるとLIM kinase-1がp57に結合することによって細胞質から核内に移行し、アクチンストレスファイバーの形成が阻害された。従って、p57はLIM kinase-1との結合を介して、細胞骨格の制御に関わることが明らかになった(投稿中)。骨芽細胞の分化と増殖の制御機構を明らかにすることは骨肉腫や骨粗鬆症をはじめとした疾病の発症機序、治療法を考える上で重要である。従って、今回、p57CDK阻害因子が細胞周期以外の経路を通して細胞骨格の制御に関わることが明らかになったことは、興味深い。今後さらに骨形成の制御においてp57CDK阻害因子とLIM kinase-1を中心としたGタンパク質の制御および細胞周期の制御が如何にして協調するかについての解明を試みていく。
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