糖尿病の環境因子としてのウイルス誘発非肥満糖尿病の防御機構の解明 2型糖尿病の成因を遺伝因子と環境因子にわけた場合、遺伝因子が関与するモデル動物には、db/dbマウス、ob/obマウスがあり、その原因はそれぞれレプチン、レプチン受容体の遺伝子変異である。一方、環境因子による糖尿病のモデル動物には、ストレプトゾトシンやアロキサンという化学物質によるものしかなかった。また従来のウイルス誘発糖尿病モデルの全てがインスリン依存糖尿病(1型糖尿病)のモデルであった。本モデルは、環境因子としてウイルス感染がインスリン抵抗性を伴わないインスリン非依存糖尿病を誘発することを示した世界で最初の糖尿病モデルである。 本モデルの糖尿病発症に関し、どの免疫担当細胞が防御に関与するか検討した。RAG2遺伝子、CD4+T細胞、CD8+T細胞、B細胞のノックアウトマウスにEMCウイルスNDK25株を接種した。接種後にRAG2ノックアウトマウスにのみ糖尿病(インスリン非依存性)が発症することより、成熟リンパ球が防御に必要であることが明らかになった。CD4+T細胞、CD8+T細胞、B細胞の単独ノックアウトマウスには、防御機構が残り、糖尿病を発症しない事により、成熟リンパ球が全て欠乏した状態でウイルスが膵ラ氏島に直接感染し、糖尿病を発症することが判明した。またウイルスが直接、β細胞に感染した場合の破壊の程度はウイルス株によって異なった。 以上の研究の結果、環境因子として、ウイルスが非肥満糖尿病を発症させる場合、1)宿主の防御能がウイルスに対し破たんしていること、2)ウイルスによる膵β細胞障害の程度により残存インスリン含量が異なり、臨床像が異なる(インスリン依存性または非依存性)。ことが示された。すなわち同じ環境要因によっても発症の有無と症状の程度に個体差が生じることがモデル動物で示唆された。
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