研究概要 |
リピッドホスファターゼSHIP2は、インスリンの標的細胞にて発現を認め、インスリンの代謝作用に重要なPI3-キナーゼ産物であるPI(3, 4, 5)P3をPI(3, 4)P2に代謝することにより、インスリン作用を負に調節する。そこで、2型糖尿病モデルマウス(db/db)でのインスリン抵抗性病態におけるSHIP2の意義を検討した。8週齢のdb/dbマウスより骨格筋、腹腔内脂肪、肝を単離し、SHIP2の蛋白発現をWestern blotで検討したところ、骨格筋と脂肪組織では、コントロール(db/+m)と比して発現の亢進を認めた。また、SHIP2の発現亢進は、db/+mマウスを高脂肪食餌下で飼育してインスリン抵抗性を惹起した際にも認められた。さらに、SHIP2の細胞内局在を遠心分画法により検討したところ、SHIP2の基質であるPI(3, 4, 5)P3が存在する細胞膜分画での細胞内局在が、骨格筋と脂肪ではSHIP2発現亢進の程度に比例して増加していた。db/dbマウスでのインスリン刺激によるPI3-キナーゼ活性は、骨格筋、脂肪、肝のすべてのインスリン標的組織で中等度低下しているのに対し、PI3-キナーゼの標的分子であるAktとatypical PKCの活性は、SHIP2の発現が亢進している骨格筋と脂肪においては、更に著明に低下していた。しかし、肝でのAktとatypical PKCの活性低下は中等度のままであった。以上より、SHIP2はインスリン作用の生理的な調節因子であることに加え、骨格筋と脂肪組織でのインスリン抵抗性病態に深く関与することが示唆された。
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