研究概要 |
実績1:酸化LDLは血管内皮細胞のトロンボモジュリン(TM)発現を強力に抑制する(J Biol Chem,271,8458-8465,1996)。本研究では、酸化LDLのTM発現抑制機序について検討した。その結果、酸化LDLのリン脂質成分が、内皮細胞のTM発現を抑制した。酸化PAPC(1-palmitoyl-2-arachidonyl-sn-glycero-3-phosphocholine)は著明にTM発現を抑制したが、nativePAPCではTM発現は変化しなかった。酸化LDLや酸化PAPCで処理したHUVECs、の核蛋白はRARb、RXRa、Sp1、Sp3の発現量が低下しており、更にTMプロモーター領域に存在するDR4およびSp1 binding elementへの核蛋白の結合が有意に低下していた。以上より、酸化LDLによるTM転写抑制は、酸化LDLに含まれる酸化PAPCがRARb-RXRa複合体のTMプロモーター内のDR4領域への結合やSp1、Sp3のSp1領域への結合を低下させることによるものと推察された。実績2:内皮細胞に限らず、単球-マクロファージにもTMの発現が認められるがその意義は明らかではない。THP-1細胞はTMを発現しており、酸化LDLによりその発現が増強される一方、PPARγのリガンドであるpioglitazoneによってもTMの発現が増強されることを明らかにした。実績3:スタチンによる血管内皮細胞のTM発現機序につき検討した。その結果、スタチンは濃度および時間依存性にTM蛋白量ならびにmRNA量を増加した。geranylgeranyltransferase-I阻害薬のGGTI-286、Rho蛋白familyの不活化薬であるClostridium difficile Toxin B(TcdB)によりTM発現は増強したが,farnesyltransferase阻害薬であるFTI-276ではTM発現は変化しなかった。Rho蛋白の中で、Rho-A, Bを阻害薬するClostridium botulinum C3 exoenzymeやRho associated kinase阻害薬のY-27632ではTM発現は変化せず、RacとCdc42を阻害するClostridium sordellii lethal toxinにて著明に増加した。以上より、スタチンによるTMの発現増加はRho蛋白のRacあるいはCdc42の阻害を介したものであることが明らかとなった。
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