研究概要 |
当院では電子ビームCTを用いて糖尿病患者の冠動脈石灰化指数を計算し、非侵襲的に冠動脈イベント発症高危険群の診断を行ってきた。これらの臨床データと、これまでに当院で蓄積された磁気共鳴技術をさらに発展させ、糖尿病性心合併症の非侵襲的診断法の実用化を目指す。心臓の測定に対応するため当院既設の磁気共鳴装置(SIGNA HORIZON-LX,1.5テスラ)をアップグレードして高速撮影を可能にした。また、体深部にある心臓に対応した挟み型コイルで、4チャンネルのフェイズドアレイコイルを持つカーデアック・フェイズドアレイコイルを導入し測定精度を向上した。その結果ハード面の問題は解決された。冠循環の新しい評価法は、(1)造影剤を用いない磁気共鳴アンギオグラフィーを心電図同期により3〜4分で撮像し、左前下降枝、回旋枝、右冠動脈の起始部の蛇行、狭窄、閉塞などの形態評価が可能となった。しかし、冠動脈はサイズが細く心拍動と呼吸により動くため、末梢部の血管描出は困難である。(2)そこで20秒以内の1回の息止めと高速シネ撮像(Fastcard-cine-PC)法を併用し、冠動脈の起始部で心電図同期により1心拍を20分割して位相画像を撮像し、血流波形、血流速度、抵抗係数を求めた。その結果、糖尿病患者に特有な血流異常が認められた。正常対照者(n=5)の左右冠動脈の平均血流速度は14.1±5.0と12.9±4.8(cm/sec)であった。しかし、冠動脈石灰化指数401以上の冠動脈イベント発症高危険群(n=7)は、狭窄や閉塞が無くても動脈壁硬化により異常な血流波形となり、左右冠動脈の平均血流速度が9.0±2.4と9.3±2.7(cm/sec)へ低下した。(3)press法を用いて左室心筋内と中隔に8x8x8(mm)の選択領域を設定し、^1H-磁気共鳴スペクトロスコピーを用いて脂肪変性を定量化することが可能となった。(4)生命維持に必要な心筋内高エネルギー燐化合物であるクレアチン燐酸やATPを定量評価するため、OVS(outer volume suppression)法などの新しい技術開発が必要である。今後さらにソフト面を充実させ、臨床データを蓄積することにより磁気共鳴ソフトウェアの実用化を目指す。
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