近年、脂肪細胞が単に過剰なエネルギーを蓄積する場であるばかりでなく、様々な生理活性物質を分泌することにより、脂肪細胞自身の機能や骨格筋や肝といったインスリン標的臓器でのインスリンの作用に影響を及ぼす可能性が示唆されている。本研究では脂肪細胞から分泌され脂肪細胞の機能や生体におけるインスリンの作用に影響を及ぼす新規な遺伝子を同定するため、脂肪細胞分化の各段階及び肥満インスリン抵抗性モデル動物の脂肪組織に発現する遺伝子を同定し、その機能を明らかとすることを試みた。 まず、脂肪細胞の分化過程で自己分泌因子であるFGF(firoblast growth factor)10が細胞増殖期に一致して発現が誘導され分泌されること、優位抑制型受容体や特異抗体によりFGF10のシグナルを遮断すると、増殖とともに脂肪細胞の分化が抑制されることを見出し、FGF10の自己分泌によるシグナルが脂肪細胞の増殖、分化に必須の機能を果たすことを明らかとした。また、DNAマイクロアレイ法により肥満モデルマウス及び対照マウスの脂肪組織に発現する遺伝子を網羅的に解析した。その結果、肥満モデルマウスの脂肪組織に特徴的に高発現する2種の分泌蛋白遺伝子を同定した。これらの遺伝子はいずれも従来脂肪組織での発現は報告がなく、その機能も十分に明らかではない。また、複数の肥満モデル動物で、これらの蛋白の血中濃度が著しく上昇すること、インスリン抵抗性改善剤であるチアゾリジンジオン誘導体の投与によりその血中濃度が低下することも見出している。現在、この2種の分泌蛋白の生体におけるインスリン作用や糖脂質代謝維持機構への関与について解析を行っている。
|