研究概要 |
糖尿病患者における動脈硬化症の進展に、血管壁の細胞外マトリックス蛋白の糖化(advanced glycation end product : AGE)が関与すると考えられている。このようなAGE蛋白が血管平滑筋細胞の機能の変化に影響を与え、動脈硬化症の進展に影響を与える可能性がある。今回、AGEの血管平滑筋細胞機能とインテグリン(マトリックス受容体)機能に及ぼす影響を、糖化I型繊維性コラーゲンを用いたin vitro培養系を用いて検討した。 繊維性I型コラーゲンまたはglycolaldehydeを用いて糖化・架橋させた繊維性コラーゲンでpolycarbonate filterをコーティングし、boyden-chamberを用いて細胞遊走能を評価した。Platelet-derived growth factor(PDGF)-BBを走化因子として用い、8時間後に遊走した細胞を定量化したところ、非糖化繊維性コラーゲンと比べて、糖化コラーゲン上では血管平滑筋細胞の遊走は完全に抑制されていた。次に両繊維性コラーゲンによるmatrix metalloproteinase(MMP)-2の発現調節を、ゼラチンを用いたzymographyを用いて検討した。非糖化繊維性コラーゲン上で培養した血管平滑筋細胞培養液中には、native MMP-2に加えて、active MMP-2が認められた。一方、糖化コラーゲン上で培養した平滑筋細胞培養液中には、MMP2全体の発現量は変化を認めなかったが、active MMP-2の比率が著明に低下していた。 このような結果より、糖化繊維性コラーゲン上ではMMP-2の活性化が障害され、その結果平滑筋細胞の遊走が著明に抑制される可能性が考えられた。このような糖化コラーゲンの作用は糖尿病性動脈硬化症の進展において、血管平滑筋細胞による血管リモデリング作用を障害するとも考えられ、その制御が重要と考えられる。この仮説を証明するため、糖化繊維性コラーゲン上でのインテグリン発現調節、recombinant MMP-2またはnative, active MMP-2発現アデノウイルスベクターの導入による糖化コラーゲン上での細胞遊走への影響を検討中である。
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