糖尿病患者における動脈硬化症の進展に、血管壁の細胞外マトリックス蛋白の糖化(advanced glycation end product : AGE)が関与すると考えられている。このようなAGE蛋白が血管平滑筋細胞の機能の変化に影響を与え、動脈硬化症の進展に影響を与える可能性がある。今回、AGEの血管平滑筋細胞機能に及ぼす影響を、糖化I型繊維性コラーゲンを用いたin vitro培養系を用いて検討した。 糖化繊維性I型コラーゲンはglycolaldehydeを用いて作製した。正常または糖化・架橋させた繊維性コラーゲン上における血管平滑筋細胞の遊走を、前年度報告したBoyden-Chamber法に加えて、リング内に密集培養した細胞の外部への遊走距離から評価した。Platelet-derived growth factor (PDGF)-BBを遊走因子として用い、48時間後に遊走した細胞を定量化したところ、非糖化繊維性コラーゲンと比べて、糖化コラーゲン上では血管平滑筋細胞の遊走は完全に抑制されていた。また、血管平滑筋細胞からの血管新生因子であるvascular endothelial growth factor (VEGF)と血管新生抑制因子であるthrombospondin-1の発現・分泌をNorthern blot法、ELISA法により測定したところ、糖化コラーゲン上ではVEGFの分泌低下、thrombospondin-1の発現亢進が観察された。またインテグリンの発現様式としては、α2インテグリンの発現低下、αvインテグリンの発現上昇がWestern blot法、Northern blot法で認められた。また糖化コラーゲン上ではmatrix metalloprotemase (MMP)-2の活性化低下がzymographyにより認められた。すなわち糖化コラーゲン上では平滑筋細胞の遊走低下、血管新生因子発現低下、血管新生抑制因子発現亢進が観察され、血管形成が抑制された状態と考えられた。これらの現象は、糖尿病状態において報告されている虚血部位の側副血管形成障害との関連が予測される。 最後に、糖化コラーゲンによる血管平滑筋細胞の遊走抑制はαvβ3インテグリン阻害抗体、またrecombinant MMP2の添加によっても回復しなかったが、抗CD36抗体により回復した。この事より、AGEコラーゲンがCD36を介して血管平滑筋細胞遊走を阻害したと考えられる。
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