研究概要 |
癌の転移に重要な役割を果たしていると考えられているRhoC遺伝子を制御し,癌治療遺伝子として応用することを目的として以下の研究を行った.ヒト膵癌細胞株よりmRNAを抽出し,逆転写酵素を用いてcDNAライブラリーを作成した.これをもとに,特異的プライマーを用いたPCR法によってRhoC遺伝子を抽出した.RhoC効果器領域であるコドン117のアスパラギンをチロシンに置換する変異をoverlap-PCR法とライゲーション反応を利用した遺伝子操作によって導入し,RhoC抑制変異体遺伝子N117Yを作成した.シーケンスにてDNA配列を確認後,哺乳類細胞発現ベクターであるpcDNA3.1+プラスミドおよびアデノウイルスベクターAdEASYシステムに導入し,N117Y遺伝子発現プラスミドおよびN117Y遺伝子発現非増殖型アデノウイルスベクターを構築した(pcDNA-N117Y,AdCMV-N117Y).pcDNA-N117Yプラスミドを導入して得られた膵癌細胞株(PCI43-N117Y,PCI19-N117Y)では,増殖抑制効果は見られなかったものの,基底膜浸潤能を調べるマトリゲル透過性試験においてN117Y導入株でのみ浸潤能の低下が確認された.これは,N117Y遺伝子の発現によって膵癌の浸潤能が低下したことを示している.以上の結果から,N117Y遺伝子が膵癌の浸潤・転移を抑制する治療遺伝子としての可能性が示唆された.
|