ウサギ頚動脈のバルーン障害モデルに対するステント留置後には、細胞分裂が血管内腔に近い部位で活発であり、また血管内腔には多数の白血球が長期にわたり付着していることも確認され、ステント留置後の内膜肥厚における細胞増殖は炎症機転と関わり合いが深いことが推察された。次に、炎症シグナル伝達で重要であるTRAF6に注目し、そのdominant negative(DN)を発現プラスミドに組み込んだものを血管壁にin vivo electroporation法を用いて遺伝子導入し血管障害に対する反応を検討した。まずTRAF6-DNを遺伝子導入することで、NF-kappaBやERKなどのシグナル伝達系が抑制されることを確認した。さらにTRAF6-DNを遺伝子導入した群では対照群と比較して、内膜肥厚形成過程における中膜・内膜の細胞増殖、平滑筋細胞の遊走、マクロファージなどの炎症細胞浸潤は有意に抑制され、一方アポトーシスは促進された。実際、バルーン障害後1週間目における内膜肥厚の程度(内膜/中膜面積比)にも有意な抑制がみられた。この様に、TRAF6は炎症シグナル伝達を含む様々な側面に作用して内膜肥厚形成に関与していることが示唆された。 今後は、バルーン障害28日後に径3mmの冠動脈用のPalmazステントを留置し、TRAF6-DNを遺伝子導入後の血管内腔の白血球の付着、細胞増殖、マクロファージの浸潤などを観察し、ステント留置後再狭窄の抑制に対するTRAF6の作用を検討する予定である。
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