研究概要 |
抗ドナー既存抗体の存在する移植(異種、ABO不適合、クロスマッチ陽性)では、抗原抗体反応により厳しい拒絶反応が引きおこされる。このような抗体の関与する液性拒絶反応のメカニズムを解析し、制御する戦略を見いだすことが本研究の目的である。ABO不適合腎移植および肝移植、クロスマッチ陽性腎移植について抗ドナー抗体価の変動をflow cytometryを用い解析した。移植後は前の30〜50%に抗体価が抑制された。拒絶反応と抗体価上昇との明確な関連はみられず、グラフトに発現する抗原量の解析が重要である。多施設検討では、抗A,B抗体価測定の標準化が必要であり、カセットを用いた機械による測定が有用である。抗体の関与する急性拒絶反応を引き起こす同種移植(ブタ)モデルを確立した。NI BS系ミニブタからLandrace/Yorkshireブタヘの腎移植では、1週以内で抗ドナー抗体が産生され、拒絶された。病理組織検査では血管型拒絶反応を示した。抗SLA (swine leukocyte antigen)抗体の関与が示唆され、SLA-DNAタイピングを解析中である。進行性の液性拒絶反応に対して、代謝拮抗剤の大量投与が有効であった。 グラフトに発現する抗原の制御として、酵素処理、遺伝子導入による抗原分子の切断と発現抑制を試みた。endo-β-galactosidase C(以下EndoGalC)を用い、ブタ血管内皮細胞上のαGal抗原(異種抗原)を98%以上切断した。ex vivo灌流,in vivo投与においても、ブタ臓器に発現するαGal抗原をほぼ完全に除去できた。ブタヒヒ異種腎移植でのグラフト生着は、2日(コントロール:数時間)であり、DFPPによる抗体除去を併用し6日であった。EndoGalCの遺伝子導入(in vitro)により、90%以上のαGal抗原切断が可能であった。現在、ブタへの遺伝子導入(核移植)を試みており、毒性の軽減とαGal抗原発現の持続抑制が期待される。
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