研究概要 |
固形癌における抗癌剤耐性機序の1つであるBcl-2蛋白に対するアンチセンス(AS)を用いた抗癌剤感受性の増強に関する前臨床試験で以下の結果を得た。 1.Bcl-2蛋白に対するphosphorothioate oligonucleotide(18-mer)処理により、乳癌、胃癌、甲状腺未分化細胞に対して1μMで最大60-70%の蛋白発現の抑制効果が得られた。1μMでの細胞毒性は10%程度であり、それ以上では細胞毒性のみが増強された。 2.In vitroにおける抗癌剤感受性は、AS Bcl-2の12時間2回前処理により乳癌細胞では,mitomycin C (MMC), paclitaxel (TXL)、胃癌でcisplatin (CDDP)、甲状腺癌でadriamycin, CDDP, taxane系にそれぞれ感受性の増加が認められた。抗癌剤感受性の増加はアポトーシス誘導に一致し、Bax, cytochrome c, caspase-3, caspase-8, PARPの活性化がみられ、受容体非依存性および依存性経路を介した誘導経路の関与が示唆された。 3.ヌードマウス可移植乳癌細胞を用いたin vivoの実験系では、in vitroと同様に抗腫瘍効果の増強がみられた。AS Bcl-2 5mg/kgの5日間腹腔内投与につづく抗癌剤投与により、MMC, TXL, TXTのいずれに対してもAS Bcl-2併用による抗腫瘍効果の増強が認められた。Bcl-2蛋白の発現は投与4日目には消失し、14日目でもBcl-2蛋白の発現はみられなかった。 4.以上から、抗アポトーシス蛋白Bcl-2の対するAS BCl-2療法は、乳癌を含む固形癌に対してBcl-2蛋白の減少を介したアポトーシス誘導経路の修飾により抗癌剤感受性が増強されることが示され、臨床における抗癌剤併用による効果増強の可能性が示唆された。
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