【目的】乳房全切除材料を用いて全乳管腺葉系をコンピューター支援下に3次元再構築し、乳管吻合と乳癌の乳管内進展の解剖学的特徴について検討した。【材料および方法】血性乳頭分泌を伴うDCISにて皮下乳腺全切除術を施行した69歳、閉経後女性の片側乳房を用いた。切除材料は10%メタノール加20%ホルマリン固定後、電動ハムスライサーを用いて厚さ2mmに全割し、厚切り標本法によって乳房内すべての乳管や小葉の走行を立体的に観察した。各切片上の乳管や小葉の断面を3次元再構築プログラム(TRI/3D-SRF、RATOC、Tokyo)によって連結し、全乳管腺葉系のコンピューター再構築画像を作製した。【結果】本症例は、乳頭を中心に16個の乳管腺葉系が放射状に配列していた。すべての乳管腺葉系は末梢方向に向かって不規則な分岐を繰り返し、全体として扇形の区域性分布を示した。乳房全体で計11箇所の乳管吻合がみられた。このうち、広範な乳癌の乳管内進展形成の危険因子である、異なる乳管腺葉系を連結する乳管吻合は2箇所であった。DCISが発生した乳管腺葉系には、隣接する乳管腺葉系との間に乳管吻合はなく、病巣は一つの乳管腺葉系の中にとどまっていた。16個の乳管腺葉系の中で、乳管吻合によって連結された乳管腺葉系は2個(12.5%)であり、残りの14個の乳管腺葉系は各々解剖学的に完全に独立した区域性を示した。また、乳頭から4cmの範囲内には乳管吻合による異なる乳管腺葉系同士の連結はみられなかった。本研究により、乳癌の乳管内進展は乳管腺葉系に沿って区域性に存在する連続病変であることが明らかになった。また、異なる乳管腺葉系の間に存在する乳管吻合(ductal anastomoses)の存在が、複数の乳管腺葉系にわたる乳癌の広範な乳管内進展を形成する危険因子であることが明らかになった。
|