研究概要 |
ブタからヒトへの異種移植の可能性を追求することを目的として、ヒトとブタのMHCクラスI領域の遺伝子構成の差異を明らかにするとともに、両種のMHCクラスI発現遺伝子の相同性や発現量などを比較するためにブタMHC(SLA)クラスI遺伝子のDNAタイピング法の確立に必要な条件の検討を行った。まず、ヒトとブタのMHCクラスI領域の遺伝子構成を比較するために、SLAクラスI領域の塩基配列未決定領域であるS遺伝子周辺のテロメア側350kbの領域について塩基配列決定を行った。この領域の詳細な塩基配列解析を完了した144,460bpの挿入断片を持つBACクローン(353A11)には、HLAクラスI相同領域と同様、転写因子IIH、コラーゲン受容体遺伝子並びに、ヒトの脳に発現しているKIAA1885遺伝子と相同性を有する新規遺伝子の存在が明らかになった。さらに、この領域のヒトESTを含む全ての遺伝子の位置関係はヒトとブタ間で完全に保存されていたが、ドットマトリックス解析の結果、ブタのこの領域の塩基配列は、ヒトの相同領域と比較して約42kb短いことが示された。 また、SLAクラスI遺伝子のDNAタイピング法を確立するために、SLA-1,-2,-3遺伝子の第1-第3エキソン間の各クラスI遺伝子座を特異的に増幅するプライマーを設計し、32頭のブタについて、RT-PCRを行った。PCR産物の塩基配列解析の結果から、3遺伝子座をそれぞれ特異的に増幅するプライマーが設計できたことが明らかになった。さらに各遺伝子座において新対立遺伝子が見いだされた。また、クラウンミニブタのSLAクラスII-DNAタイピングのデータを含めた家系解析により、SLAクラスI,IIホモ接合体のブタを検出することができたことから、今回開発したSLAクラスI-タイピング法は、同種及び異種移植実験に有用なSLA遺伝子純系ミニブタの作出にも有効であると考えられた。
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