研究概要 |
消化管は最大の免疫担当臓器であり、リンパ組織に覆われている。人工肛門における縫合糸は粘膜で自然脱落することから、皮膚よりもマトリックス・メタロプロテアーゼが多く存在する。Tリンパ球は免疫反応ばかりでなく、創傷治癒でも重要である。IL-2により皮膚線維芽細胞の増殖やコラーゲン新生が促進される。今回、IL-2活性およびTリンパ球機能を抑制するタクロリムス(FK506)を用いて消化管吻合部におけるマトリックス・メタロプロテアーゼ活性と治癒過程を検討した。 雄性SDラット(270-290g BW)55匹を用いた。下行結腸を切離、1層内翻結節縫合を行った。FK506(藤沢薬品より供与)は0.01, 0.1, 1.0mg/kg/dayを浸透圧ポンプ(model 1003, Alza)にて背部皮下より投与した。対照群は溶媒のみ投与した。第4日目に吻合部破裂圧(mm Hg)、コラーゲン(μg/mg wet tissue)を測定した。また、吻合部の肉眼的組織学的検討を行った。 血中FK506濃度(0.1, 1.0mg群)は1.4, 3.4ng/mlであった。FK506群では体重増加が抑制され、負の窒素バランスを示した。濃度依存性にマトリックス・メタロプロテアーゼ活性が抑制されたが、対照でも1.0mg群と同様に抑制された。組織所見ではFK506群では多層構造が保持され、粘膜下層が肥厚・癒合していた。対照では粘膜下層に相当する厚い肉芽組織により断端は癒合していた。 創傷治癒初期におけるIL-2の抑制により体重増加や窒素バランスは抑制されたが、吻合部マトリックス・メタロプロテアーゼ活性も抑制され、吻合部治癒が促進された。今後、コラーゲン新生とマトリックス・メタロプロテアーゼ活性の両面から創傷治癒過程について検討していく必要がある。
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