従来の生体近赤外分光法では血中ヘモグロビンの大部分を占めるオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンがその測定対象であったが、我々は臓器移植に伴う拒絶反応時にそれだけでは解析しきれない成分が存在することに気付き、それが一酸化窒素ヘモグロビンであることを示し、その動態に関して興味ある結果を得た。但し、生体が光の強散乱体であるため、生体に入射した通常の光は表面から1〜2mm以上深部には入り得ないことから、動物を開腹し、直接、臓器に光を照射して測定した。これを完全に無侵襲で行うためには強力な光源が必要である。そこで、本研究では波長可変固体レーザーを用いて体外から光を照射することを試みている。昨年、再現性のよいスペクトルを得るのに必要な光源レーザーの出力の安定化を行ったが、今年度も前半はさらなる安定化を図った。しかし、その後、生体からの散乱光の検出感度が徐々に低下し、以前の半分以下にまで低下した。その原因を調べた結果、半導体検出器の性能が、強力なレーザー光を測定している影響で急激に劣化していることが判明した。そこで、将来のフォトン計測を考慮して電子増倍管を用いる方法などを広く検討したが、必要な波長範囲をスキャンして良好なスペクトルを短時間に得ることはできなかった。そのため、元の半導体検出器に戻り、これの更新を行った。その結果、従来よりも幾分か信号対雑音比のよいスペクトルが得られるようになった。これを用いて、正常ラットの低酸素応答を調べた結果、従来と同様の結果が得られることが判明した。従って、今後、ラットの移植モデルを用いた実験が行えるようになった。
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