従来の生体近赤外分光法では血中オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンが主な測定対象とされ、光源強度の制約から複数個のレーザーを用いた3波長、4波長測定が行われていた。しかし、これでは得られる情報量は少なく精度も悪い。私達は連続スペクトルの持っている潜在的情報量の多さに着目して、生体の連続スペクトルを測定し、多成分解析により生体内物質を定量する測定系を開発した。これにより、生体内で産生された一酸化窒素と血中ヘモグロビンとが結合した一酸化窒素ヘモグロビンを定量し、臓器移植後の組織の機能障害の起こる前の段階で拒絶反応の程度を評価し得ることを示した。連続波長光源には強度を犠牲にしてハロゲンランプを用いたため、体外から測定するには光量が少なく、やむなく、開腹して測定していた。従って、無侵襲測定とはいえず、そのためには強力な連続光光源が必要であった。そこで、近時、発達の著しい波長可変レーザーの開発、導入を試みた。私達の装置は、Nd:YAGレーザーの第2高調波を励起光とするチタンサファイアレーザーで、その共振器内に非同軸型の音響光学素子(AOTF)を導入した。AOTFに印可する超音波の周波数を変化させて得られた波長可変域は12nmと狭かったが、その原因はAOTFによる回折角の波長依存生のずれによることが判明した。その波長依存性がプリズムの屈折角の波長依存性と類似していることに着目して、共振器中に適切な特性を持ったプリズムを挿入してずれ角の補正を行った。その結果、波長可変域は700nm〜960nmに広がった。これを動物実験に用い、開腹することなく、体外から腹部に近赤外光を照射し、深部臓器からのスペクトルを得ることに成功した。現在、ラット肝移植モデルを用いて拒絶反応の進行状況の体外モニターを行っているところである。
|