研究概要 |
本年度は合成ノンペプタイドである合成エンドセリン受容体拮抗剤(SB209670)の投与が肝臓の温再阻血灌流後に生ずる肝微小循環系や肝細胞障害をどのように防止できるかについて検討した。 「方法」ラット(平均体重286g)を全身麻酔かで呼吸管理し、静脈補液を行って、水分バランスや血液ガスや血圧・心拍などをモニターして全身状態を生理的状態に保持しながらPringle法で20分間の肝温阻血を行った。阻血再灌流5分前に生食0.1ml投与群、SB(10mg/kg)投与群、非温阻血再灌流群の3群(各群6匹)で実験した。生体蛍光顕微鏡ビデオ観察・解析システムを用いてラット肝の微小循環系(類洞・中心静脈)に及ぼすSBの影響を血管径、灌流率、白血球膠着を指標とし、肝細胞障害への影響は胆汁排出量(総胆管カニュレーション)、肝細胞逸脱酵素類(SGOT, SGPT, LDH)の血中変動、組織学的変化を指標に評価した。「結果」類洞の収縮、白血球膠着、灌流率低下などは、SB投与で有意に防止されたが、類洞の遠位に有る中心静脈ではSBの有意な効果は観察出来なかった。胆汁排泄量はSB投与群で有意に回復したが、肝細胞逸脱酵素の血中上昇は防止しなかった。また、肝温阻血後に出現する空胞変性を有する肝細胞数もSB投与で有意に減少しなかった。 「考察」エンドセリン受容体であるETAとETBの両者に非選択的に結合するSBの血管収縮や白血球膠着に及ぼす作用が類洞と中心静脈で異なっている点は注目すべきであろう。類洞では阻血再灌流で誘導されたエンドセリン-1と類洞上皮と類洞星細胞の両者に発現したETAとETBへの結合をSBが阻害する事によって血管収縮や白血球膠着を抑制すると考えられる。しかし、複数の類洞の集合排水管である中心静脈の血行動態がETA, ETBの発現分布の相違を含め、類洞とは異なる機序に支配されていることが考えられる。
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