胃排出は胃体部、胃前庭部、幽門輪、十二指腸の協調運動によって調節されているが、幽門輪の収縮弛緩のメカニズムはよく解っていない。近年、幽門輪を温存した胃切除術が盛んに行われるようになったが、温存した幽門輪が正常に機能しているかは詳細に検討されていない。本研究では、イヌを用いてStrain gauge force transducerで消化管運動を測定することによって、幽門輪運動のメカニズムを検討した。モデル犬としては、正常犬、幽門周囲外来神経切除犬、胃切断再吻合犬、幹迷切犬を作成した。実験はすべて術後1週間より意識下に行った。 幽門輪運動は収縮と弛緩が観察されたが、弛緩は空腹期収縮のPhase IIIにのみ観察され、胃前庭部収縮に同期していた。また幽門輪弛緩に同期して十二指腸は休止期になった。食後期には胃体部の弛緩にともない、胃前庭部、幽門輪の律動的収縮が観察されたが、幽門輪に弛緩は起こらなかった。幽門輪周囲の外来神経を切断したイヌでは幽門輪弛緩はphase IIIに観察されたが、胃切断再吻合犬、幹迷切犬では幽門輪弛緩は観察されなかった。収縮頻度では胃切断再吻合犬、幹迷切犬で頻収縮が観察された。 空腹期のphase IIIにのみ観察される幽門輪弛緩は、食後期に排出できなかった大きな未消化物を肛門側に排出するために起こると考えられた。幽門輪弛緩は迷走神経からつながる胃の筋間神経叢によって調節されていると考えられた。 幽門輪温存胃切除術後の幽門輪運動は現在投稿中である。
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