既存の大腸がんcell lineを用いて、放射線感受性と関連遺伝子発現、細胞周期遅延効果との相関を検討した。p53野生株で照射後p21蛋白を誘導する細胞株は放射線感受性が強い傾向にあった。細胞周期蛋白cdc2やアポトーシス関連蛋白Baxの有無についても検討し、細胞株間で明らかに発現の違いを認めたが、放射線感受性との関連は明らかではなかった。 次に手術サンプルより分離培養した初代培養株を用いて関連蛋白の発現並びに遺伝子の変異について検討したところ、同一サンプルより異なる複数のコロニーが得られた。p53については半数程度に変異を認めるものの同一サンプル由来で野生株と変異株が混在する例が認められた。Apc遺伝子につき蛋白のtruncationで変異をチェックしたところ、大部分の細胞株でそれぞれ一定のサイズのtruncationを認め変異があると考えられた。大腸がんの段階的な発癌過程や遺伝子レベルの不安定性を示唆する所見と考えられた。p53野生株の放射線感受性が強い傾向にあったが、大腸がん組織内のheterogeneityを考慮すると術前の治療感受性評価は関連遺伝子の発現を検討するだけでは充分ではなく、治療中の癌組織内のpopulationの変化を考慮する必要があると考えられた。治療耐性を検討する際もheterogeneityについて考慮することが必要と考えられる。 東大病院の手術サンプルについては、患者のプライバシーの問題があるため、遺伝子レベルの解析は一切行わず、今回は将来的な実験の予備実験として、非常に少ないサンプルから初代培養を行う手法の検討を中心とした。蛋白分解酵素を用いず、少ないサンプルを直接細切して培養し、早期に細胞のN/C比や核や核小体の形態を参考にしてクローニングする方法で効率的ながん細胞の初代培養に成功した。
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