本研究では、胃癌患者における癌部および非癌部粘膜組織を多数例採取し、それに含まれる複合糖質の発現と、糖鎖の組織内分布を明らかにし、さらに臨床病理学的な諸因子と比較検討することで、胃癌の浸潤・転移における複合糖質の意義を解明することを目的とした。 まず、胃癌患者71例より胃の新鮮切除標本を術中採取し、得られた胃の癌部および非癌部粘膜組織をビオチン標識Maackia amurensis leukoagglutinin (MAL)で染色した結果、癌部組織は染色されたが、非癌部組織は全く染色されず、MALで認識される複合糖質が癌部組織に特異的に発現していることが明らかとなった。さらに、癌部組織におけMAL発現細胞の割合で、症例をMAL高発現グループと低発現グループに分類することができた。また、種々の病理学的因子との関係を統計学的に調べた結果、MAL認識複合糖質の高発現が胃癌の浸潤や転移と強く相関しており、しかも、患者の予後と深く関係していることが示唆された。一方、MAL認識複合糖質の実体を明らかにするため、胃癌患者の癌部組織から調製した糖脂質画分と蛋白質画分について解析した結果、MALで認識される複合糖質は糖脂質ではなく糖蛋白質であることが明らかとなった。 これまでの一連の研究結果より、胃癌部組織にはMALで認識される糖鎖を有する糖蛋白質が発現しており、その高発現が患者の予後と深く関わっていることが明らかとなった。この成果は、今後、胃癌症例における予後や転移予測といった臨床応用や、特異的な糖鎖をターゲットとする抗癌剤の開発、新しい腫瘍マーカーの発見につながると考えられる。
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