研究課題
ラットによる基礎的研究により、胆管内無水エタノール注入の安全性と効果が明らかとなった。本法の臨床的研究を行うことを目的に、4例に対し胆管内無水エタノール注入を施行した。対象となった症例は、切除不能胆道癌で、将来起こりうる区域性の胆管炎を防止するために当該区域の胆道を破壊する目的で施行したものが2例、術後難治性胆汁瘻の治療目的で施行したものが1例、肝内胆管癌に対し右3区域切除施行予定の患者で、予定残存肝の容量、機能増大効果をねらって門脈塞栓術と共に施行したものが1例であった。全例経過中に重篤な合併症を起こさず、目的を達成できた。胆管内エタノール注入施行中、顔の火照りを訴えたものが3例、痛みを訴えたものが1例であった。痛みは一過性のものであった。エタノール注入後、2〜3日間は全例に発熱を認めた。白血球の上昇は軽度であった。術後難治性胆汁瘻の治療目的で施行した症例では、エタノールを注入した亜区域は経過とともに著明に萎縮し(体積は25%から9%に減少)、胆汁排泄も全く認められなくなった。拡大肝切除術の術前処置として施行した症例でも、エタノール非注入区域には代償性肥大と胆汁排泄能の著明な亢進を認め、超拡大肝切除術にもかかわらず術後経過は極めて良好であった。病理組織学的検討では、エタノール注入区域には偽胆管と線維組織の増殖によるglisson域の拡大と肝細胞の減少が認められ、ラットに類似した変化であった。免疫組織染色、Azan染色により肝細胞、胆管細胞、線維組織を染め分け、コンピューターによりそれらの占める面積の割合を自動計算したところ、エタノール非注入区域ではそれぞれ93.5%、0.5%、1.0%であったのに対し、注入区域では64.8%、6.0%、5.9%と肝実質組織の萎縮が明らかに認められた。ただし、ヒトではラットと異なり1回の注入では効果は乏しく、胆管を能動的に閉鎖させるには6〜7回(3週間程度)の注入が必要であった。
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