研究課題
基盤研究(C)
280gから310gのラットを麻酔下に開腹し、無水エタノール0.2mlを左葉(70%領域)の胆管内に注入した。この容量は造影剤注入による検討で決定した。14日後に再開腹して検討すると、左葉は萎縮し肝全体の50%未満の重量であった。一方、右葉重量は1.6倍に増大しており、同時に肝細胞Ki-67 labeling indexが24時間後に有意な高値を示し、肝細胞増殖の亢進が示された。エタノール注入24時間後に摘出した左葉を病理組織学的に検討したところ、小葉間胆管の細胞は完全に破壊され脱落し、グリソン鞘周囲の肝細胞も一部破壊されていた。門脈、肝動脈は破壊されず構造がよく保たれていた。14日後では線維組織と偽胆管の増生を伴うグリソン域の拡大が認められ、肝膿瘍、肝壊死は認められなかった。分離灌流肝によりエタノール注入14日後のラット肝の胆汁排泄量、胆汁中胆汁酸排泄量を測定したところ、右葉では肝1g当たりの排泄量が2倍以上に増加していたが、エタノールを注入した左葉では胆汁排泄はほとんど認められなくなった。このように、ラットでの検討では、1回のエタノール注入で左葉肝内胆管は完全に閉鎖し左葉は萎縮した。同時に右葉には代償性の肥大が認められ、胆管内エタノール注入は残肝体積増大法として有用な方法と考えられた。臨床においても、肝切除術後に胆汁瘻を生じた1例に本法による胆管閉鎖法を施行した。1回のエタノール注入では胆管は閉鎖せず、胆管が完全に閉領し胆汁瘻が治癒するまでには計6回(3週間)の注入が必要であった。エタノール注入後には顔面発赤や発熱、軽度の血液データ異常を認めたが、疼痛はなく肝膿瘍などの大きな合併症は発生しなかった。本法終了後2年以上が経過しているが、胆汁瘻の再発は認めない。その後さらに3例に対し本法を施行したが、安全に施行できた。今後は少ない回数かつ短い期間で安全に胆管を閉鎖させるように注入法を改良する必要がある。
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