研究概要 |
胃癌腹膜転移過程における,癌細胞と腹膜との相互作用を,癌細胞と周囲微小環境の構成成分である線維芽細胞や中皮細胞との関連性ついて検討した. スキルス胃癌の腹膜播種性転移において,腹膜中皮細胞はその防御因子の一つと考えられている.ヒト腹膜播種の腹膜組織像を検討すると,癌細胞のみならず線維芽細胞を中心とする著明な間質増生が見られた.癌細胞浸潤を認めない部位の腹膜にも,線維芽細胞の増生や中皮細胞の剥離が認められた.マウス播種転移巣においても,腹膜は線維芽細胞の増生と中皮細胞の立方化・間隙の開大・剥離脱落が認められた.そこで,このような腹膜播種転移巣における腹膜の線維芽細胞の増生が,播種性転移にどのように関連しているのかについて,癌細胞の浸潤能や中皮細胞の形態に注目しin vitroにて検討した.Invasion assayを用いて,腹膜線維芽細胞が癌細胞の浸潤能に及ぼす影響を検討したところ,腹膜線維芽細胞により癌細胞の浸潤能は促進された.次に,腹膜線維芽細胞が中皮細胞の形態におよぼす影響を検討したところ,培養中皮細胞は,腹膜線維芽細胞培養上清の添加により経時的に円形浮遊性または紡錘形と形態が変化した.この形態変化により,中皮細胞間に間隙が認められ,単層敷石状の中皮細胞の有する防御作用が失われ,中皮下への転移を来たし易い環境が生じたと考えられた.HGF, EGF, TGF-β, Collagenaseは、中皮細胞の形態を変化させる作用を有していた.さらに中和抗体を使った検討により,この中皮細胞の形態変化は,線維芽細胞が産生するHGFが作用していると考えられた.以上,腹膜線維芽細胞増生により産生されたHGFは,中皮細胞の形態や癌細胞の浸潤能に影響し,胃癌の腹膜転移に適した状態をもたらしていることが示唆された.
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