研究概要 |
スキルス胃癌における腹膜播種性転移の発生頻度は,高分化型胃癌と比し高率である。そこで組織型の異なる胃癌での宿主微小環境の腹膜播種性転移能におよぼす影響について,腹膜中皮細胞や腹膜間質組織との接着や,接着分子β1-integrin発現について検討した。 【材料と方法】スキルス胃癌細胞株3株(OCUM-2M, OCUM-2MD3,0CUM-8),高分化型腺癌株2株(MKN28,MKN74)および胃線維芽細胞株1株(NF-14)を用いた。OCUM-2MD3をNF-14培養上清(以下NF14-CM)で処理し,ヌードマウスにおけるOCUM-2MD3の腹膜播種形成能に及ぼす影響を検討した。癌細胞に,NF14-CMや増殖因子を添加し,癌細胞と腹膜中皮細胞及びMatrigelとの接着能の変化をadhesion assayにて,CD44H,α2β1-,α3β1-integrinの発現に及ぼす影響を検討した。 【結果】NF14-CM添加により,ヌードマウスの生存期間は有意に短縮した。スキルス胃癌細胞株では,NF14-CM, TGF-β1処理により,腹膜中皮細胞との接着能およびCD44H発現は有意に増強された。また,このNF14-CMの増強作用は,抗TGF-β1中和抗体により有意に抑制された。一方,高分化型細胞株では,胃線維芽細胞の影響をうけなかった。また接着能や,β1-integrinの発現は,何れの細胞株においても変化はみられなかった。 【結語】スキルス胃癌細胞は,胃線維芽細胞との相互作用によりCD44H発現が亢進し,腹膜中皮細胞との接着能が増強された。その因子の一つとしてTGF-β1が示唆された。一方,高分化型細胞株では,胃線維芽細胞の影響をうけず,組織型によって胃線維芽細胞に対する反応性が異なっていた。
|