研究概要 |
癌性腹膜炎は胃癌の転移形式のなかでも高頻度に認められ,予後を決定する要因であるが,その機序はいまだ十分には明らかにされていない.胃癌腹膜播種性転移株を用い,癌細胞がもたらす腹膜組織の変化と腹膜播種性転移機序との関連性を検討した. 【材料と方法】胃癌細胞株(OCUM-2MD3,以下D3),腹膜中皮細胞株(MS-1)および腹膜由来線維芽細胞株(NF-2P)を検討に用いた.In vivoでは,D3無血清培養上清をマウス腹腔内接種し,腹膜の組織学的変化を検討した.In vitroでは,胃癌細胞が線維芽細胞NF-2Pの増殖に及ぼす影響を細胞数算定やHPLCを用い検討した。またNF-2Pが中皮細胞MS-1の形態に及ぼす影響を種々のサイトカインやその中和抗体を用いて検討した.【結果】マウスの正常腹膜には,ほとんど間質細胞が認められないのに対し,D3培養上清をマウス腹腔内接種することにより,腹膜組織に線維芽細胞などの間質成分の増生と中皮細胞の剥離が認められた.D3培養上清は,NF-2Pの増殖を有意に促進した.HPLCの検討により,この増殖促進には,D3が産生する分子量25-43KDaの物質が関与していると考えられた.また,NF-2Pの培養上清により,MS-1が紡錘形に変化し,細胞間隙の開大が認められた.この形態変化作用は抗HGF中和抗体により抑制された.【結論】胃癌細胞は腹膜に炎症性間質組織を増生させ,この増殖促進物質は癌細胞が産生する分子量25-43KDaの物質と考えられた.胃癌細胞は,増生した腹膜線維芽細胞の産生するHGFにより,中皮細胞の形態変化を誘導し,腹膜を癌の転移に適した環境へと変化させている可能性が示唆された。
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