今回検討したキメラNd2抗体は、膵癌のムチン分画を免疫原として作製した抗体で、定常領域(Fc部)を遺伝子工学的手法によりヒト型に変換した抗体である。その認識抗原エピトープは、MUC5ACムチンのコア蛋白および癌関連糖鎖の一部で、正常組織にはほとんど発現していないと推測され、免疫組織染色の結果からも、膵癌に特異性が高い。そこで本抗体が、近年注目されている抗体治療への応用に際し、ADCCやCDCの誘導が可能かを検討した。結果、in vitroの検討にて、膵癌細胞に本抗体が結合することにより、Fcレセプターを有するエフェクター細胞が抗体のFc部に結合し細胞障害をきたすADCC活性の誘導が可能であることが明らかとなった。またそのエフェクター細胞としては、単球、NKのみならず好中球も作用することが判明し、好中球を賦活するG-CSFにてADCC活性が増強された。また、CDCの誘導の検討でも、キメラNd2抗体がCDC活性も誘導可能であることが判明した。以上の結果を踏まえ、これらin vitroで誘導可能なADCCまたはCDCを介した細胞障害によりin vivoで抗腫瘍効果を示すかを検討した。その結果、膵癌担癌ヌードマウスにおいて、キメラNd2抗体の投与により、皮下腫瘍での抗腫瘍効果が判明し、同所移植モデルにては生存期間の延長が、また膵癌に特徴的な肝転移の抑制効果も認められ、さらに好中球賦活剤であるG-CSF投与にてその抗腫瘍効果の増強が確認された。これらの効果は、in vitroの結果と合わせ、いずれもADCCあるいはCDC誘導によるものと考えられ、キメラNd2抗体が膵癌に対する抗体治療薬として、非常に有用性が高い抗体であることが示唆された。現在、本抗体について免疫原性、副作用の軽減目的にヒト化抗体を作製中であり、今後切除不能進行膵癌や再発症例に対する集学的治療の一つとして臨床応用に向け、検討を重ねていく予定である。
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