急性壊死性膵炎では膵および膵周囲の感染を合併し重症化しやすい。この易感染性は免疫能の低下に起因している可能性がある。急性膵炎では、膵および腹腔内へ浸出した好中球などの食細胞が局所における感染防御機構を担っており、補体や免疫グロブリンによるオプソニン化は食細胞による食菌作用を増強する。オプソニンレセプターであるCD11b(Mac-1のαMサブユニット;補体第三因子iC3bと結合する)、CD32/CD16(IgGFcレセプターII/III)は好中球表面に発現し、食細胞の動員と活性化に重要な役割を果たしている。本研究では、急性膵炎における感染防御機能の変化を明らかにするために、マウス急性膵炎モデル(浮腫性および壊死性)を用いて、腹腔浸出細胞中および末梢血中の好中球のオプソニンレセプターの発現を経時的に検討した。 Balb/cマウスを用い、caerulein50μg/kg体重を1時間毎に7回(浮腫性膵炎群)または13回(壊死性膵炎群)皮下投与し急性膵炎を誘導した。1、3、6、12、24、72時間後に、末梢血と腹腔洗浄液を採取し、好中球のCD11bとCD32/CD16の発現をフローサイトメトリーにより検索した。 腹腔浸出好中球数は壊死性膵炎群の方が浮腫性膵炎群よりも多かった。腹腔浸出好中球のCD11bとCD32/CD16の発現は浮腫性膵炎の早期で亢進していたが、壊死性膵炎では発現亢進が抑制された。末梢血好中球数は壊死性膵炎では増加したが、浮腫性膵炎では変化はみられなかった。末梢血好中球のオプソニンレセプターの発現は、浮腫性膵炎早期に一過性に軽度亢進したが、壊死性膵炎では全経過にわたり著明に亢進した。 壊死性膵炎では浮腫性膵炎と比べ、オプソニンレセプター発現が腹腔浸出好中球では減弱し末梢血好中球では増強した。この変化が壊死性膵炎での局所感染と多臓器不全の原因となる可能性が示唆された。
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