研究概要 |
【背景と目的】これまでにわれわれは、ヒトゲノムを制限酵素ランドマークとし、二次元に泳動して解析するRestriction landmark genomic scanning法(以下RLGS法)を用いて、肝細胞癌に関与する新規の癌遺伝子を検出してきた。本法はゲノム上にある数千の染色体座位をスポットとして描出する解析法で、癌部・非癌部間のスポット変化を検討することで、欠失、増幅、転座の変化や脱メチル化に伴う発現の変化を検出することができる.本研究では、このRLGS法を用いて大腸癌に関与する遺伝子異常を検出することを目的とする。 【方法】当院にて手術した進行大腸癌患者検体25例より、その癌部および非癌部のDNAを抽出した。得られたDNAを、最初にメチル化感受性を有するNot Iで切断し、続いてPvu II、Pst Iにて切断した。癌部、非癌部のスポットを比較し、共通変化をみとめるスポットを、ゲルより直接そのDNAをクローニングした。さらにその脱メチル化と発現についての分子生物学的解析を加えた。 【結果】癌部・非癌部間のスポット強度の比較により6種類の共通変化スポットが得られた(spot A-F)。その内、非癌部のみに出現増幅するスポットが4種類(spot A, B, C, D)、癌部にのみ出現増幅するスポットが2種類(spot E, F)であった。最も高頻度に変化を認めたspot Eの塩基配列は410bpであり、ヒト3番染色体と95%、ヒト脂肪酸合成酵素(FAS)遺伝子と69%の相同性を認めた。 クローニングしえた残りのspotの出現頻度はspot B 44%(11/25)、spot C 24%(6/25)、spot F 28%(7/25)であり、塩基配列はそれぞれ271、168、374bpであった。それぞれのhomologyは、ヒト染色体1番(90%)と9番(98%)のgenomic contig、およびHuman Not I clones(99%)であった。 【総括】脂肪酸合成酵素関連遺伝子断片を含む、脱メチル化によって生じる大腸癌発生に関連する可能性がある4種類の共通変化スポットについて、クローニングをした。今後、これらの抗体を作製し、パラフィン切片を用いて免疫染色を行い、これらの遺伝子異常と臨床病理学的因子との相関を検討中である。
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