我々は、造腫瘍性で非転移性の1-1ras1000細胞を受容細胞とする転移関連遺伝子スクリーニング系を用いて、転移形質発現を指標とした形質発現クローニングを行い、ヒト大腸癌細胞株から転移誘導活性を有する遺伝子としてRhoファミリーGタンパク質のGDI(GDP Dissociation Inhibitor)のひとつであるD4GDIを分離した。非転移性細胞株にC末欠失型D4GDIを強制発現させると転移が誘導されること、これが細胞膜に局在することをウエスタン法により既に明らかにしていた。今年度我々は、タグを付加したC末欠失型D4GDIを用いてこれが細胞膜に局在することを免疫蛍光染色法で確認した。また、C末欠失型D4GDIがERMタンパク質と結合していることを免疫沈降法で明らかにした。さらに、細胞膜において実際にC末欠失型D4GDIがERMタンパク質と共局在していることを免疫2重染色法により明らかにした。また、C末欠失型D4GDIの細胞膜への局在に伴って細胞膜のRhoA量が増加することも見いだした。これらの結果から、D4GDIがERMを介したRhoファミリーの分子の細胞内分布や移行の制御に関わっており、この制御系の異常が転移を引き起こしている可能性が示唆された。また我々は6種類のヒト大腸癌細胞株でD4GDIのサイズがウエスタンで見たかぎり正常型であるにも関わらず、そのうち5種類の細胞株では細胞膜のD4GDI量が顕著に増加していることを見いだした。ヒト大腸癌細胞株における細胞膜D4GDI量の増加の機構は不明であるが、ヒト大腸癌でもやはりD4GDIが悪性進展に関わっている可能性が考えられた。
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