研究概要 |
[方法]当科にて樹立したヒト食道扁平上皮癌培養細胞株(KEシリーズ)3株におけるperoxisome proliferator-activated receptor(PPAR)γ発現をWestern blot, RT-PCRにて検索し,PPARγリガンドであるthiazolidinedion(troglitazone : TZD)による食道癌細胞増殖への影響についてin vitroにて検討した.またTZDの細胞周期に及ぼす影響,アポトーシス誘導能,分化誘導能についても検討した. [結果]今回検討した食道癌培養細胞株は全ての株においてmRNA,蛋白レベルともPPARγを発現しており,TZDにより細胞増殖は濃度依存性に抑制された.100uMのTZDにて処理後3日目にはコントロールに比較して約80%の増殖抑制を認めた.PPARγリガンド処理により,処理細胞では細胞周期GO/G1期の細胞分画が約20%増加し,細胞増殖期マーカーであるKi-67染色を行うと,TZD処理によりKi-67陽性細胞は80%から16%に著明に減少した.DNA fragmentationはTZD処理前後で変化を認めず,Annexin-V染色によるアポトーシス細胞は約4%と少なかった.また扁平上皮の分化マーカーであるinvolucrinの発現は3倍以上に増加した. [考察]食道癌においてはPPARγが発現しており,そのリガンドであるthiazolidinedionにより増殖抑制が認められたことより,新たな食道癌治療の標的となる可能性が示唆された.また,PPARγリガンドにより細胞周期GO/G1 arrest,ならびに扁平上皮への分化がみられたことより,増殖抑制の機序としては細胞周期の抑制および細胞分化が示唆された.
|