研究概要 |
胸腺上皮性腫瘍の代表的な腫瘍である胸腺腫・胸腺癌の病理組織像は多彩で、World Health Organizationによってまとめられた胸腺上皮性腫瘍の分類によれば、Type A、AB、B1、F2、B3、Cの6つの組織亜型に再分類されている。WHO病理分類は、腫瘍学的性質および免疫学的性質をよく反映しており、Type A、AB、B2、B3、Cの順に浸潤性性質の進行が認められ、Type A、AB、B1腫瘍は術後再発がほとんどないのに対して、Type B2、B3、C腫瘍では術後再発が多く、有意に予後不良である。すなわちType A、AB、B1、B2、B3、Cの順に腫瘍の悪性度が増すと考えられ、WHO病理分類が胸腺腫瘍の悪性度を決定する遺伝子異常のスペクトラムを反映しているものと推測される。そこで、WHO病理分類の各組織亜型ごとの腫瘍細胞における遺伝子発現を比較するために、胸腺腫の腫瘍細胞由来のmRNAを材料として生物学的悪性度・免疫学的機能に関与する遺伝子を解明することを企図し、初代培養された上皮細胞由来のmRNAをもとにGene Chipによる解析を行った。Type AB腫瘍1例とType B2腫瘍1例づつを一組として遺伝子チップ(Amersham社製のCodelink)を用いて11,000の遺伝子発現を同時に解析した。比較は別個の症例を用いて2組に行われた。Type B2腫瘍でType AB腫瘍より再現性をもって2倍以上の発現を示した遺伝子は333種類であった。逆に、Type AB腫瘍においてType B2腫瘍より再現性をもって2倍以上の発現を示した遺伝子は395種類であった。以上、合計728の遺伝子における発現の違いが明らかになった。今後、pick upされた遺伝子の発現をその他の組織型の腫瘍を含めた多数例において、定量的RT-PCR法・免疫組織染色などにより、確認する予定である。
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