p53により誘導されるアポトーシスの分子レベルでのメカニズムを解析し、より効果的なアポトーシス誘導の可能性を検討した。まず、癌細胞へのp53遺伝子導入により、その標的遺伝子の発現がどのように変化するかを定量的に解析するシステムを樹立した。具体的には、real-time RT-PCR法を用いてp53標的遺伝子の発現変化を定量的に測定した。in vitroでp53遺伝子を欠失している非小細胞肺癌細胞H1299にp53遺伝子発現アデノウイルスベクター(Ad5CM V-p53)を感染させ、そのp53遺伝子発現の増強に伴う標的遺伝子の発現変化を観察した。検討した遺伝子は、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子p21、アポトーシス誘導因子p53AIPl、Noxa、およびp53の分解に関与する癌遺伝子MDM2である。いずれの標的遺伝子もp53遺伝子導入後24時間をピークに発現増強が認められた。さらに、in vivoでの標的遺伝子発現の誘導を検討した。ヌードマウスにH1299細胞を移植し、直径が5-7mmになった時点でAd5CM V-p53ベクターを腫瘍内に局所投与し、経時的に採取した腫瘍片から抽出したRNAを用いてreal-time RT-PCRを行った。in vitroのデータと同様に24時間後をピークにp53AIPl、Noxa、MDM2、p21遺伝子の発現増強がみられた。p21、MDM2、Noxaの発現はp53遺伝子導入後1日目に最大となり、遺伝子発現量はp21が最大であった。また投与後2-3日目にアポトーシスが最も多く誘導されていた。さらに、p53の標的遺伝子であるp21遺伝子プロモーターにより駆動するGFP発現プラスミドを導入した肺癌細胞を樹立した。樹立細胞によるマウス皮下腫瘍にin vivoでp53遺伝子導入後、高感度蛍光感知カメラにて蛍光光度の変化を経時的に観察し、簡便かつ非侵襲的な方法で腫瘍内でのp53転写活性をリアルタイムに可視化した。導入されたp53に反応してp21プロモーターにより誘導されたGFP発現は3日目に最大となり7日目には著明に減弱していた。 「非小細胞肺癌に対する正常型p53遺伝子発現アデノウイルスベクター及びシスプラチン(CDDP)を用いた遺伝子治療臨床研究」では、15症例にAd5CM V-p53単独あるいはシスプラチンとの併用で治療を行ない、平成15年7月第I相臨床試験を終了した。本研究では、Ad5CM V-p53を腫瘍内投与した患者から採取した48時間後の生検組織のRNAからreal-time RT-PCRを行った。p53、Noxa、およびp53AIPl遺伝子発現は投与後確実に上昇していたが、p21、MDM2に関しては一定の傾向はみられなかった。また、p53およびp53標的遺伝子の発現は、6ヶ月を越える治療期間中も繰返し認められており、導入効率は維持できていることが示唆された。
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