研究概要 |
血管新生療法は虚血臓器に対する新しい治療法の一つとして注目されている。我々は自己全骨髄細胞を虚血臓器に局所注入し、血流と生理機能の回復を得ている。しかし、骨髄細胞の成分は非常に複雑であり、各研究者は種々の骨髄細胞の分画を血管新生誘導に使用している。しかし、理論的には、内皮細胞への分化能を有している骨髄幹細胞成分のみを分離して投与する方法が最も効率的な血管新生を誘導できると思われる。我々は骨髄幹細胞中の成熟血液系細胞とやや未熟な幹細胞を分離採集し、それぞれの血管新生誘導能を調べた。 実験方法としては加齢(12-14ヶ月)のC56BL/10マウスから骨髄を採集し、骨髄細胞中の単核球を分離した。その後、抗幹細胞受容体(c-Kit, CD117)抗体を用いてMACSで、単核球から骨髄幹細胞と成熟血液系細胞に分けて、それぞれ培養し、培養上清中のVEGFとIL-1betaの産生量をELISA法で測定した。また、培養14日目の細胞のCD34,VE-Cadherin, Tie-2,Flk-1陽性率を免疫染色法で調べた。さらに、骨髄幹細胞(2×10^5)と成熟血液系細胞(9.8×10^6)を加齢マウス虚血下肢筋肉内にそれぞれ4ケ所注入し、血管新生効果を治療二週間後の虚血下肢の血管密度、血流量で評価した。 結果では加齢マウス骨髄単核球中に約2%の細胞がCD117陽性であった。培養7日目後の幹細胞の培養上清中のVEGF濃度は成熟血液系細胞より十倍高かった(P<0.001)。IL-1betaの濃度は培養3日目までは成熟血液系細胞が幹細胞より有意に高かった(P<0.05)が、その後は差を認めなかった。幹細胞は培養14日目まで生存増殖し、細胞のCD34,VE-Cadherin, Flk-1,Tie-2陽性率がそれぞれ約80%,65%,70%,55%であった。しかし、大半の成熟血細胞では培養後14日内に死亡し、CD34など陽性細胞はなかった。骨髄幹細胞を注射したマウス虚血下肢の血管密度と血流量は成熟血液系細胞を注射した群より有意に高かった(P<0.01)。 以上の結果より骨髄中の幹細胞は成熟血液系細胞より虚血臓器に対する血管新生誘導の中心役割を果たすことが判明した。
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