研究概要 |
凍結保存弁の耐久性は生存内皮細胞,線維芽細胞の機能に依存するとされている。しかし我々のこれまでの研究では,弁の修復,再生を担うとされる内皮細胞と線維芽細胞機能が凍結保存,解凍工程により著明に低下し,matrix metalloproteinase等による分解能が亢進していた。そして,それが移植後の弁の変性・破壊,機能不全を導く可能性を指摘してきた。そこで,凍結保存弁を解凍後に組織培養し,新鮮弁に近い状態に回復させうるか否かについて検討した。まず培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)をプログラムフリーザーにて1〜14日間凍結保存し,解凍後に1〜14日間細胞培養した。凍結前,解凍直後,培養後経時的に以下の項目を比較検討した。細胞数を光顕で観察し,細胞機能をミトコンドリア脱水素酵素活性,エステラーゼ活性,NO産生能から評価した。次にブタ大動脈弁,肺動脈弁を同様に凍結保存・解凍後に1〜14日間組織培養した。共焦点レーザー顕微鏡でエステラーゼ活性に基づく細胞生存性を観察し,細胞機能を同様に評価した。結果は以下の如くである。 1.HUVECsでは細胞培養により,光顕的に明らかに細胞増殖し,約2週間の培養により,ミトコンドリア脱水素酵素活性,NO産生能が新鮮HUVECsのそれに近づいた。エステラーゼ活性は60%回復にとどまった。 2.ブタ大動脈弁,肺動脈弁は組織培養により,共焦点レーザー顕微鏡の観察で明らかに生細胞が増加し,ミトコンドリア脱水素酵素活性が回復した。 以上の結果より,凍結保存弁を解凍後に約2週間組織培養することにより新鮮弁に近い状態に回復させうることが判明した。今後,同弁の移植実験を行うことにより,移植後の抗血栓性,免疫応答等の生体反応により,組織培養等により凍結保存弁の細胞生存性を回復させることが遠隔期弁機能にどのような影響を与えるかの検討を要する。
|