臨床病期I期(cT1-2N0M0)、腫瘍径3cm前後までの末梢性小型肺癌で、リンパ節転移がないと判断される症例をVATSの適応とした。ただし、腫瘍径が小さくともindentationのあるものは除外した。63例の組織型は腺癌60例、扁平上皮癌3例、カルチノイド1例であた。術者は患者の背側に立ち、聴診三角部に約6センチの小開胸をおき、第5〜6肋間中腋窩線からスコープ用ポート、第3〜4肋間前腋窩線から操作用ポートを挿入し、葉切除および肺門・縦隔リンパ節郭清を施行した。VATSは低侵襲である。VATS術後の平均在院日数は14日であり、同時期に施行した標準開胸(以下Open)群の15日と差がなく、手術時間にも有意差はない。しかし、術後1日目の血中インターロイキン(IL)-6はVATS群112±43(pg/mL)、Open群351±133と有意に前者で低値である。数値以上に術後臨床の現場からの観察ではその低侵襲性が明白である。疼痛、特に術後数日目移行の疼痛には歴然たる差があり、鎮痛剤使用量もVATS群で有意に少ない。VATS群29例、Open群57例において、術前・術中・術後の末梢血中CEA mRNAの検出を行うと、術前陰性例が術中一過性に陽性化する割合は、VATS群16/18(89%)、Open群18/35(51%)とVATS群が有意に高率である(P<0.001)。このことは肺癌に対するVATSはOpenに比し、術中癌細胞撒布の危険性が高いことを示している。VATS63例の予後は観察期間中央値2年1カ月の時点で再発死3例(4.8%)と良好である。またこれら3例はいずれもpN1-2の症例である。臨床病期I期の末梢性小型肺癌に対するVATSは、現時点における予後解析では妥当な術式と考えられる。しかし、さらに腫瘍径の大きな肺癌に対する適応拡大は、術中癌細胞撒布の観点から慎重であるべきと考える。
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