臨床病期I期の非小細胞肺癌240例を対象に、胸腔鏡補助下肺癌根治術(VATS)群67例と同時期に施行した標準開胸下手術(Open)群173例を比較する事により、前者の利点と問題点を考察した。VATSの適応は、臨床病期I期、腫瘍径3cm前後までの末梢性小型肺癌でリンパ節転移がないと判断された症例とした。但し胸膜陥入像のあるものは除外した。VATS群とOpen群との間で、手術時間と在院日数には差がない。術中出血量はVATSが少ない傾向にある。鎮痛処置回数はVATSが有意に少ない。術後1日目の血中インターロイキン(IL)-6は、VATS群が平均112(pg/mL)、Open群が351(pg/mL)と前者で有意に低い。これらの結果はVATSがOpenに比し、明らかに低侵襲である事を示している。一方でVATSにはいくつかの技術的問題点がある。視野が狭く手術がやりにくいのは確かである。特に、リンパ節郭清は時間をかければ可能であるが不確実になりやすい。中葉切除における肺門リンパ節廓清や左側の縦隔郭清は難しい。分葉不全のある中葉切除も難しい。左上葉切除におけるA3の処理も難しい。総じて、習熟しないと術中manipulationが多くなる傾向にある。このような観点からCEA mRNAをターゲットとした末梢血中潜在癌細胞の分子生物学的検出を行った。術前陰性の症例が術中一過性に陽性化する頻度は、Open群51%に対しVATS群は89%と有意に高率であった。この事はVATSがOpenに比し、術中癌細胞撒布の可能性が高い事を示唆している。しかし実際の予後解析では、観察期間中央値3年と6ヵ月の時点で両術式間に有意差を認めない。現在の適応基準下に行う肺癌に対するVATSは妥当な術式と考えられるが、術中撤布の危険性を念頭においた技術的な習熟が必要である。
|