早期と考えられる固形癌においても、流血中、骨髄中などにしばしば癌細胞が存在する事は以前から指摘されていた。このような微小に存在する癌はmicrometastasisあるいはoccult metastasisと呼ばれ、この領域の研究は最近の約10年間で飛躍的に進展した。その結果、固形癌の中でも特に全身病的性格を有する肺癌や乳癌などの病態を裏付ける貴重なデータが集積されつつある。しかしその一方で、微小転移を有しながらも臨床的に再発巣を形成しないdormant metastasisが存在する事もまたしばしば報告されている。さまざまな手法により存在が確認された微小転移の臨床的意義については、未だほとんど全ての癌種において明らかにされていないのが現状である。 血中や骨髄中に存在する癌細胞の研究は最近の約10年間で飛躍的に進展し、その存在診断法は分子生物学的手法が主体となった。本研究において施行したCEA mRNAをターゲットとしたRT-PCR法は、正常細胞10^7個あたり10個の肺癌細胞を検出可能である。非小細胞肺癌に対する肺葉切除術に際して、術前、術後のCEA mRNAの検出は、術後補助療法の適応や、検査を通常より頻回に施行するいわゆるintensive follow-upの適応を決定するための指標として有用な情報を提供してくれる。術前・術後を通じて血中CEA mRNAが検出される症例は、たとえIA期、IB期の早期症例であっても手術時すでに全身病とみなすべきであり、局所療法としての手術のみでは根治が望みがたい再発高危険群である。小細胞肺癌患者の血中には継続的に末梢血中CEA mRNAが検出され、小細胞肺癌がやはり全身病としてとらえられるべきである事を示している。本研究において、肺癌患者の末梢血中癌細胞の分子生物学的存在診断の臨床的意義と問題点について明らかにする事ができた。
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