雑種成犬10頭を用いて、左房容量負荷と心房高頻度ペーシングモデルにおける左房容量と心房細動持続時間の経時的変化を検討した。さらに4-5週後に持続性心房細動の心外膜マッピングを行い、その電気生理学的特長を検討した。すなわち、鎖骨下動脈肺動脈短絡術による左房容量負荷を行い、さらに1週間後より刺激周期100msの左心房高頻度ペーシングを開始した。全頭において著明な左房拡大と進行性のうっ血性心不全がみられ、10頭中4頭は心不全にて死亡あるいはペーシングの維持が困難となった。残る6頭にて上記の検討を行った。高頻度ペーシング開始1週間後では、ペーシング中止後に数心拍の心房反復性興奮が認められ、2週間後では、心房反復性興奮が数秒間持続した。さらに経時的に経過を観察したところ、高頻度ペーシング開始4週間後では、ペーシング中止後に持続性心房細動が十分間以上維持された。右心耳と左心耳で経時的に記録した心房興奮周期は、常に左心耳が右心耳よりも短く、経過とともに短縮していった。持続性心房細動のマッピングでは、左右の上肺静脈から同時に出現する興奮周期の異なる巣状反復性興奮が観察された。この興奮は遅延伝導を伴って右心房に伝導していた。これらの所見は、ヒトの僧帽弁疾患に伴う心房細動の電気生理学的所見に極めて類似していることから、この新しい心房細動モデルは左房容量負荷に合併する心房細動の研究だけでなく、予防法と治療法の開発に有用であると考えられた。
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