種々の分子ターゲッティングによる中性子捕捉療法の基礎的研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13671420
• 研究機関: 筑波大学
• 研究代表者: 能勢 忠男 筑波大学, 臨床医学系, 教授 (10009699)
• 研究分担者: 高野 晋吾 筑波大学, 臨床医学系, 講師 (50292553) ; 松村 明 筑波大学, 臨床医学系, 助教授 (90241819)
• キーワード: 中性子捕捉療法 / 粒子線治療 / アルファ線 / ホウ素 / ガドリニウム / ガンマ線 / 分子マーカー / ABC protein / Oatp2

研究概要

1.ホウ素化合物の分子ターゲッティングに関する基礎的研究
中性子捕捉療法に用いられるホウ素化合物であるsodium borocaptate (BSH), boronophenylalanine (BPA)を用いて腫瘍細胞への取り込みについてその細胞周期依存性の研究を行ってきた。その結果としてYoshida et al., Cancer Lett, 2002に論文が掲載された。要約するとBSHは細胞周期依存性が少なく、どの細胞周期にも入り、BPAはG2/M, S期の分裂している細胞に多く取り込まれ、G0/G1期には取り込みが少ないことがわかった。さらにBPAにおいてconfluentの状態、つまり静止期細胞の成分が多くなるとホウ素の取り込みも全体として増殖しているときに比べて減少することがin vitroの実験であきらかとなった。これを実際の腫瘍患者にあてはめるとBPAのみではすべての腫瘍細胞をカバーしておらず、特に腫瘍中心の低酸素状態や低血流状態にある細胞はホウ素化合物の取り込みが少なく中性子捕捉療法の効果が充分に及ばない可能性が示唆された。よって、今後BSHとBPAの併用療法を臨床でも検討していくことが考えられ、さらに来年度検討を行う。
2.ガドリニウム化合物による分子ターゲッティングの研究
中性子捕捉療法においてガドリニウム(Gd)化合物と中性子の捕獲反応でガンマ線が生じる。Gd化合物はMRI画像の造影剤としても用いられており、腫瘍が造影される部分において選択的なガンマ線照射ができる可能性がある。本研究では2種類のGd化合物を用いてその生体内動態と治療効果の検討を行った。その結果、肝臓特異的Gd造影剤として知られるGd-BOPTAは従来の非特異的Gd造影剤であるGd-DTPAに比べてより高い濃度で取り込まれて時間滞留し、また中性子照射による治療効果もGd-BOPTAがすぐれていることがわかった。これはATP binding casettte (ABC) proteinの受容体を介した能動性輸送のメカニズムがあるのではないかと考えられた。脳腫瘍細胞においてはまだ確認できていないが肝臓ではorganic anion transporting polypeptide (Oatp)2の発現のある細胞にGd-BOPTAが取り込まれることが知られており、このような分子マーカーを介しての取り込みについて来年度さらに検討する予定である。

研究成果

• [文献書誌] 松村明, 山本哲哉, 柴田靖, 能勢忠男: "原子炉を用いた悪性脳腫瘍の治療、中性子捕捉療法"日本原子力学会誌. 43. 975-963 (2001)
• [文献書誌] Zhang T, Matsumura, Nose T, et al.: "Comparison of two Brain Tumor-Localizing MRI Agents : GD-BOPTA and GD-DTPA. -The study of Magnetic Resonance Imaging and Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy with Rat Brain tumors"American Journal of Neuroradiology. 23. 15-18 (2002)
• [文献書誌] Yoshida F, Matsumura A, Nose T, et al.: "Cell cycle dependence of boron uptake from two boron compounds used for clinical neutron capture therapy"Cancer Letters. 187. 135-141 (2002)
• [文献書誌] Yamamoto T, Matsumura A, Nose T, et al.: "In-phantom two-dimensional thermal neutron distribution for intraoperative boron neutron capture therapy of brain tumours"Phys Med Biol. 47. 1-10 (2002)
• [文献書誌] Shibata Y, Matsumura A, Nose T, et al.: "Competitive uptake of porphyrin and LDL via the LDL receptor in glioma cell lines : flow cytometric analysis"Neuro-oncology. 166. 79-87 (2001)
• [文献書誌] Matsumura A, Nose T, et al.: "In Vivo Gadolinium Neutron Capture Therapy Using a Potentially Effective Compound (Gd-BOPTA)"Anticancer Research. (in press accepted Feb.2003). (2003)
• [文献書誌] Matsumura A, Nose T, et al.: "Intraoperative Boron Neutron Capture Therapy Using Thermal/Epithermal Mixed Beam, pp 1073-1078"Sauerwein W, Moss R, Wittig A eds., Monduzzi, Bologna In: Research and development in Neutron Capture Therapy. 1153 (2002)