研究概要 |
1.ホウ素化合物の細胞周期依存性に関する研究 本研究では中性子捕捉療法の臨床研究で用いられているBSH (Sodium Borocaptate),BPA (Boronophenylalanine)という2種類の薬剤を用いて細胞周期による取り込みの違いを調べ、投与方法や細胞周期制御による取り込み改善の基礎データを得ることを目的とした。 結果としてはBSHは細胞周期依存性が少なく、BPAはG2/M期により多く取り込まれることがわかり、またBPAでは暴露時間により細胞内濃度が上昇することよりactiveな取り込み機序が働いており、G2/M、G0/G1期の間の濃度差は時間経過とともに均一化する傾向があきらかとなった。 これより、今後の臨床研究における投与時間の工夫やさらには細胞周期制御による取り込み増感の研究につながる知見が得られた(Yoshida et al.,2002) 2.BSHの腫瘍内取り込み機序に関する研究 BSHは12個のホウ素クラスターに-SH(thiol基)が側鎖としてついた構造をしていることに着目し、代表的thiol化合物であるグルタチオン(GSH)の関係を検討した。GSHの細胞内枯渇によりBSHの細胞内への取り込みが増加したことより、BSHがGSHと腫瘍細胞に競合的に取り込まれる可能性を初めて明らかにした。また、GSH枯渇下条件でBSHを添加することにより放射線障害が軽減する現象も観察され、BSH自体がthiol化合物として細胞保護効果を有する可能性が明らかになった(Yoshida et al.,submitted 2004)。 3.ガドリニウム(Gd)化合物による中性子捕捉療法の基礎的研究 Gd化合物はMRI用造影剤として広く用いられているが、これまで脳領域ではGd-DTPAなどの細胞外造影剤が主に用いられてきた。これに対し、肝臓用造影剤であるGd-BOPTAに着目して実験脳腫瘍において腫瘍内への取り込みの経時的変化と濃度を両者で比較した。Gd-BOPTAは脳腫瘍においてもGd-DTPAに比べて長時間で高濃度に腫瘍内に留まり、中性子捕捉療法に適していることが明らかとなった(Zhang et al.,2002)。この機序として肝臓ではGd-BOPTAの取り込みにATP binding cassette(ABC)proteinが関与していることがいわれており、脳腫瘍においてもこのような分子機序の解明が期待される結果となった。 さらには実際に両Gd化合物を用いて中性子照射を行ったところ、Gd-BOPTA群でGd-DTPAに比べて有意に腫瘍増殖抑制効果が見られることを示し、さらなる研究の推進が期待される結果が得られた(Matsumura et al.,2003)。
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