マウスの海馬内にカイニン酸を投与することにより人の側頭葉てんかんの特徴的な形態変化である海馬硬化を惹起できる。このモデルを用いて、難治性てんかんである海馬硬化の成因に関する知見を得ることを目的に研究を行った。このモデルでは神経突起の伸張やグリアの著明な増生が認められるが、細胞外液中にこのような形態変化を促進する物質が存在するのかを検討するため、マイクロダイアリーシスにより、カイニン酸投与側、非投与側の海馬より細胞外液を抽出し、これを神経幹細胞の培養液中に添加した。神経幹細胞はグリア、ニューロンともに分化が確認されたが、添加した細胞外液の違いによる分化の差は認められなかった。しかし、活性の急激に減衰する物質が放出されている場合には、抽出液では活性低下を生じている可能性もあり、in vitroだけでは否定はできない。そのため、逆に神経幹細胞をカイニン酸投与・非投与の海馬内に移植する実験を試みている。これまでのところ対照と比較し移植細胞はカイニン酸投与海馬において生着率が軽度ながら高かった。しかし、生着した細胞はニューロンへ分化するものはほとんどなく、グリアへの分化だけが認められた。現在行っている移植方法では神経幹細胞は長期の生着がきわめて少なく、幹細胞分化への検討を行うことは困難である。使用する幹細胞の条件など今後は移植の条件を変更することが必要である。 このモデルではこれまでの研究より、少なくとも脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加は確認されている。ただし、これは神経細胞内にあるものを見ているもので実際に細胞外に多量の放出があるのかは不明である。細胞内のタンパクを含めた検討は他の細胞に対する分化誘導因子の研究目的に適合するものではないが、実験系の検証という意味も含め、対照実験として分散肥大化した海馬よりタンパク抽出を行い、神経幹細胞の分化に対する影響を検討中である。
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