酸性糖シアル酸を持つ糖脂質、ガングリオシドが細胞周期に影響を与えることに注目し、そのなかでGM3がグリオーマ細胞の増殖抑制に有効ではないかと考え検討を行った。その結果、20から200μMの濃度でのGM3投与群はコントロール群に比べ有意にグリオーマ細胞株の増殖を抑制し、抑制度はGM3の濃度に依存した。その結果をもとにC6グリオーマ細胞をラット大槽内に移植し脳腫瘍モデルを作成し、in vivoの検討を行った。GM3投与群では800μMのGM3を移植10日目に大槽内に投与し、グリオーマ細胞移植後のラット生存日数を比較検討した。その結果、コントロール群の平均生存日数は19.5日であったがGM3の大槽内投与群の生存日数は22.0日に延長した(P<0.05)。さらに、その腫瘍細胞増殖抑制作用がGM3投与によるアポトーシス誘導によるものであることがTUNEL法により解明した。脳槽内単回投与では3日目を境にアポトーシス細胞は消退していき、GM3の脳あるいは脳腫瘍内への浸潤効果は限られることが示された。 一方ではグリオーマ細胞の接着浸潤に対する作用の解明を行った。GM3による細胞運動能への作用をBoyden Chamber Assayより求めたところ、GM3の濃度依存性に細胞運動が抑制された。さらに三次元構築脳組織培養モデル(slice culture)に共焦点レーザーを組み合わせ、腫瘍塊から脳組織に浸潤するグリオーマ細胞を経時的に生細胞として捉え、脳内浸潤への影響を明らかにした。その結果GM3が腫瘍増殖抑制のみならず、浸潤能の抑制に働いていることが明らかになった。以上のことより、高濃度のGM3局所投与が、悪性グリオーマに対して増殖、浸潤ともに抑制することがわかり、グリオーマ治療におけるGM3の局所投与は比較的安全でかつ有効な新しい治療方法となる可能性が示唆された。
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