研究概要 |
まず硼素化合物(BSH)投与から中性子照射までの至適時間についてまず臨床例から検討した。悪性神経膠腫、特に56症例の膠芽腫に対してBSHを頸静脈的に投与して、腫瘍を摘出した。BSH投与からの血中の経時的な硼素濃度と腫瘍組織濃度を個々の症例で測定した。これでは、腫瘍内濃度は血中濃度に比べて緩やかに減衰し、投与開始から12時間で両者の関係は逆転する、すなわち腫瘍内濃度が血中濃度を上回っていた。また、実測値と計算値との関係から投与後12-19時間が最適な中性子照射時期であるとの結論になった。 次に投与から中性子照射までの至適時間の決定と細胞内局在の検討のためにC6ラットグリオーマモデルを用いて基礎実験を行った。50mg/kgのBSHを尾静脈から投与後に1、4,8,16,24,48時間でラット脳を摘出して組織中の硼素濃度を測定し、また抗BSH抗体を用いて硼素の組織内局在を免疫染色で検討した。BSH投与後1時間目と8時間目の組織切片中の硼素濃度を測定したがいずれの切片中も硼素が確認され、その定量解析でも未処理群と有意差はなかった。そして次に先の時間毎に取り出した。免疫染色では、硼素は1時間後には既に細胞全体で認められたが、8-16時間後には比較的細胞の核に限局していた。48時間経過した時点でも、まだ硼素は細胞全体に存在していた。以上の実験結果から、硼素がより細胞核に限局して集まる8-16時間頃が中性子捕捉療法が最も効果が期待できる時間帯であると思われた。 BPAについては、過去の報告から投与後1時間目の中性子照射が最適とされている。また、細胞膜でのイオンチャンネルを介する能動輸送で細胞内に至ると報告されている。以上の結果から、BSHとBPAを併用した場合、中性子照射の12時間前にBSHを投与しておき、照射の1時間前にBSAを投与するのが至適であると考えた。
|